1:混乱 to 暴虐の蟹々

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「バ、バンキッシュね。わかったよ。で、パドたちはこの国の軍隊なんだな」 「はッ!我々は独立国家バンキッシュ国軍特殊部隊、第88小隊隊員一同であります!」  それにしても日本語うまいよな。というかみんな日本語しか話してない。襟元とかに自動翻訳機とかを常備しているのだろうか?  なわけないか。いや、だとすれば……  俺の脳裏に嫌な()()がチラついていた。 「おい、そろそろいいか?テメェの要求……目的はなんだ?」  案の定しびれを切らしたルビーはたまらず割り入ってきた。  要求って……そんなの決まっている。 「俺を街まで連れて行ってほしい。そして家に帰れるよう最大の協力をして欲しい」  そして俺の要求にルビーは驚いた表情を見せている。 「待て待て、そんな事か……?」 「そんな事って……そうだな、あと……できれば身の安全も保障してくれると助かる」 「そりゃ当然だろ。アタシがお前の第一保護者、つまり『保護責任者』なんだからな……ったく、お前ホントに希少種かよ」  そう言ってルビーはショートカットの赤髪を掻きむしるが、パドが口を開く。 「ルビー軍曹、横槍で申し訳ないのですが、クロさんは希少種ながらあの過酷な状況下にいたのです。今はそれくらいにしましょう」 「……ありがとう、パド」  俺のその言葉にパドは驚き、ルビーは大きな溜め息をついた。 「あのなあクロ、お前が普通じゃない事はよーくわかった。ホントなんも知らねーんだな」 「……ごめん」 「そうじゃねーよ」 ――――……?? 「少なくとも希少種は『ありがとう』や『ごめん』なんて言葉を軽々しく口にしねーんだよ、バカタレ」  そうどこか安堵の表情を浮かべ、呆れたように小さく笑っていた。 「るるる、ルビー軍曹!その発言は――――!!」 ……。  まだまだ分からない事だらけだが、この話し合いの収穫は大きかった。なんとなくだが色々見えてきた。  恐らく『希少種』ってやつはこの国である程度の権力を持っている存在なのだろう。そして少なくともルビーは嫌いだと言っていた。もしかしたらクォーツも同じ気持ちだったのかもしれない。  そして俺がその一人だという事。何かの分母の中で希少な存在なのは間違いない。でも血の見た目なんて誰でも一緒だと思うが、血や傷口のどこを見て判別できるのかは謎だ。  一体なんなんだよ……希少種ってのは……。 ただ、なんとなく、このバンキッシュという不思議な国に対して俺の中で最悪の()()がひとつだけあり、そこに向かって着実に近づいている気がした。
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