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『少し冷静になれ』
そんな言葉が頭を掠め、少しづつ『思考』という俺にも平等に与えられた能力が芽生え始める。
酸欠で頭が朦朧とする視界の中、必死に情報収集を試みた。
ここはかつてオフィス街だったのか、埃っぽいその景色には不健康そうな緑の植物が蔓延る灰色の世界。
生存するガラスなどほとんど存在せず鬱蒼と連なる廃ビルの数々は青空を圧迫している。
太陽の位置からして今は昼だろう。それくらいしかわからない。
無造作に傾く錆びついた電柱は今にも倒れそうで、そこからだらしなく垂れるケーブル。
落下した看板らしきものがコンクリートの地面に突き刺さっているが文字など読める状態ではない。
唯一分かるのはこの大きな通りが道路であっただろう白線が微かに残っていることだ。
灰色のジャングル……ってな表現がしっくりくる。
そして、少なくとも俺の知っている土地ではないという事だけは確かだ。
「……何処だよ、ここ」
そして右往左往する俺の目を通し、貧相な思考は次のステップへと進む。
『誰かヒトは?』
今までの情報で誰かいることなど絶望的状況なのはわかっている。逃げ回ってきた中でヒトの姿も無かった。
でもそれにすがるしかなかった。両目で希望や可能性を探すことしかできなかったのだ。
ただ、人工物があることだけが救い。アマゾンじみたジャングルのど真ん中に落とされる状況下よりは数百倍マシだ。
誰かいる可能性はゼロじゃない。
だが俺というサバイバル知識も語学力も何もない低スペックな人間にとって、一人では打開できない事など分かりきっていたからこそ誰かの力が必要だった。
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