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そして少女に手を振り『またなー』とその場を離れたルビー。
賑やかな街を少し離れたところで、そんな街の光景に目をやり煙草に火をつける。
「どう思う?……300年前から来たお前から見てさ」
「お世辞にも裕福とは言えないな。でも……」
「なんだよ?」
「でもなんか……すごくいい街だと思うよ。みんな笑っててさ」
彼女を色々褒めたたえたかったが、調子に乗るからそれ以上はやめておいた。
俺の言葉を聞いたルビーは『ふー』っと煙を夕焼けに向けて吐き出す。
「いい街か……。お前にはそう見えるのか。嬉しいよ」
煙草は吸ったことがないが、今までで一番おいしそうに吸ってる気がする。
「クロ、お前の住んでた頃のバンキッシュ……日本はどんなだったんだ?」
「そうだな……近代的な建物がここよりもずっと多くて、もっとごちゃごちゃしてたよ。物も、人も」
「なんだそれーッ!はは!」
声を出して笑うルビーに、ここよりも平和で……なんて話をするのは野暮ってものだ。素晴らしい世界の定義など何処にもない。
ただ、唯一言えるのは、この時代の人間は『輝いている』
少なくとも俺にはそう思えたのだ。
「あと2週間、頑張ってこの時代に慣れろよ。そしたら、ココみたいな街じゃなくて、立派な家に住んで、カッコいい車に乗って、ゆっくり『帰り道』探しできるさ」
「あんまりそういうのに興味はないんだよなー。もちろん帰り道は探すけどさ」
するとルビーはまたしても笑う。
「お前はほんとこの時代の人間じゃねーんな。腹いてーわ。でもまあ、お前はアタシが初めて好きになった立派な希少種だ。胸を張って生きればいい。アタシが協力してやる」
ホントこいつは恥ずかし気もなく堂々と……
「よろしく頼むよ」
「希少種様の意思の尊重とあらばッー」
俺の胸元ほどしかない小さな背丈。少しだけ子供じみた鼻に掛かる声。
夕焼けで更に赤みを帯びた深紅の瞳は名前の通り赤い宝石のように輝いていた。
「嫌味かよ」
そして首筋までのショートの赤髪を耳にかけ、
「そうだよバカタレッ」
ニッと歯を見せ意地悪そうに笑う。
不覚だが……
本当に不覚だがちょっとだけ可愛いと思っちゃった……。
――――……。
市街地を抜けると、そこには大きな市場とでもいうのだろうか。
本来ならマグロみたいな大きな魚が地面に並べられていそうな小売店のテントが数十と建ち並んでいた。緑色が買い取り専門の軍のテント、黄色や白が小売業者らしい。
「ここはマーケットて言ってな。変異生物、ガルダの素材を取引をする場所だ。全国各地で行われていて夜市とも言われてる。その名の通り、取引は17時以降、今から盛り上がってくるとこさ」
ルビーの言葉どおり、テントの下に並んでいるのは見た事のない生き物や動物の肉、試験官が沢山ならんだテントには丸で囲まれた薬のマークも見て取れる。
「ルビー、蟹の体液とかって……」
「ああ、精神安定剤みたいな鎮静効果がある。なんで?」
「いや解決した。ちなみにさっきの定食いくらだったんだ?」
「あ?400円だよ」
なるほど。通貨単位は円で、物価は俺の時代より少し低いくらいか。
そして、魚を売りさばく『競り』のようにガラガラ声の男達が手をあげて買い付けしている様子も伺える。
まあそんな中にゲイリーがいた。人一倍デカい声と体で周りの買い付けにきたであろう人たちを威圧していた様子から声は掛けなかった。
っていうかいつの間に来たんだよ……。俺たちの方が先にでたよね?
「なんかまた雰囲気が違って……男くさいな……」
そして銃や剣、斧などの武装に身を包んだ猟師や、ルビーや俺と同じ軍服に身を包んだ兵士達の姿が増えていく。
ロープで縛られた大きなホワイトタイガーが荷車に引かれてきたかと思えば、狂暴な顔つきのウサギだったり。もう驚かない。変異生物、ガルダだろう。一体何百種類いるんだ。
そんな風にルビーに色々聞きながら歩いていると、緑色のテントの一角が人だかりになっている。
「ちょっとッ!なんでこんなに安いのよッ!信じらんないッ!」
「で、ですから落ち着いてください……!!」
人が沢山いて様子は見えないが、どうやらテントの色から困り果てる兵士と若い女性が揉めているようだ。
「喧嘩……?よくあることなのか?」
でもなんだろう、この懐かしい感じ。
そんな光景を眺めている俺の横で、
「まあ珍しくはねーけど……ん。……なあなあ、ちょっと見に行ってみよーぜ。クロ」
ルビーはまるでこれから遊園地の乗り物にでも乗るかのような顔をして俺の腕を引いた。
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