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そして、テント裏の腰ほどの高さにある花壇の端に不満そうな顔で腰を降ろしたクォーツ。
するとルビーはクォーツに向かいピッと何かを指で弾き飛ばす。
「それはスラインで収穫したグランドクラブの爪から出てきたもんだ。そんな精巧でデケェ弾……使ってるやつなんてお前しかいねーだろ。自作なんだからすぐにわかんだよ!」
するとそれを手の上で確認したクォーツは、
「はぁー……わかったわかった。私が悪かったわッ」
右手をクイックイッと上げ、さっきまでの表情など忘れてしまうかのようにガッカリ感を出している。
絶対反省しててないよね?
「クヒヒ!じゃあアタシの勝ちだな!」
「で……私がクロの事を希少種って知ってるからって何か問題でもあるの?」
勝ち誇るルビーにクォーツは2度目の溜め息を吐いた。
もう早く帰りたい感がひしひしと伝わってくる。
「希少種保護法……アタシが何を言いたいか分かるよな?お前なら」
その瞬間クォーツは焦ったように立ち上がり顔色を変える。
「いや、ムリムリムリ!!冗談でしょッ!?」
「冗談じゃねーよ。新たな、もしくは危機的状況の希少種、その第一発見者は保護責任者として希少種を保護する責任がある。つまり第一発見者はアタシじゃない。お前だ、クォーツ」
――――……!?
え……どういう事?ルビーじゃないの?
「勘弁してよ……!!期間は!?」
「2週間」
「ちょっと待ってルビー!アンタが保護責任者じゃないの!?クロを連れまわしてるんだから!!」
そうだ!そうだ!その通りだ!!
「いや報告書にもそう書いちまった。保護責任者んとこお前の名前で。まあ書いたのはパドだけど」
「うそでしょー……!?信じらんないッ!!」
クォーツはそう言って再び座り込むと頭を抱えている。
さすがに俺もたまらず口を挟む。
「信じられないのはこっちの台詞だっての!おいルビー!!お前なんでそれ黙ってたんだよ!?クォーツが保護責任者だなんて!」
クォーツは俺を見捨てたんだぞ!?なんでそんな奴のとこにわざわざ!
と言いたかったが止めとく!!生存本能が働いた!!
「まあまあクロ、アタシにはお前らが繋がってる確証はなかったけど今確信したよ。今、お前は『クォーツ』の名前を元々知っているかのように呼んだ。本当は知ってたんだな、クォーツの名前」
「ぐっ……それは……!!」
確かに知らないと嘘をついたのは事実だ……
「まあそんな気がしてたからな。どうせ『黙ってて』とか言われたんだろ?わかってるさそれくらい。アタシもパドも」
パドもそうだがルビーも完全に読み切っていた……こいつ馬鹿なのに鋭い……
「希少種を見捨てたクォーツ、お前はこのままじゃ独房行きからの極刑だ。恐らく死刑もあり得る。そしてアタシは掟を守る軍人。無かった事にはできない」
そんな重々しい言葉を吐いているが、顔はニヤニヤしてる。
なんだか面倒の押し付け合いみたいで肩身が狭いんですけど……
そして、落ち込むクォーツに肩を組んでその耳元で囁く。
「でもアタシも鬼じゃねーんだ。トモダチのお前がちゃんと保護責任者を引き受けてくれるなら見逃してやってもいい。ちなみに……謝礼金も出る」
掟はどーした。
「……え!いくらッ!?」
その瞬間クォーツは抱えていた頭から両手を離し目をキラキラさせている。
そしてルビーが5本の指を立てると……
「し、仕方ないわねッ。それじゃあ……そうしようかなッ?」
とか言って天を仰ぐように笑みを浮かべているではないか。
何コロッっと逝ってんだよ……!!
それは紛いもなく守銭奴の笑みだ。
クォーツの扱いが巧過ぎる……
するとルビーは俺の方に近寄ってきて、
「まあクロ、ここは大人しく従ってくれ。クォーツは頭もイイし知識も豊富だ。何より歴史に詳しいマニアみたいなもんだ。必ずお前の武器になる。それにアレだろ『埃だらけの男臭い兵舎』より女の家の方がいいじゃねーか!」
そう言って背中をポンポンと叩きなだめてきた。
そんなクォーツの方に目をやると、すぐに面白くなさそうな顔をしてプイッと目を背ける。
コイツ…………!!!!
「まあ、付き合ってやってくれ。アタシに免じて」
ルビーの顔を見れば何故か少し申し訳なさそうな顔をしている。
「なんでそんな顔してんだよ……ルビー」
「クォーツにとっても……希少種と過ごす事はリハビリみたいなもんなんだ」
リハビリ……って……
「それにあいつは……友達いねーんだ。彼氏も」
「でしょうね」
「ねぇ聞こえてんだけど」
なんだかんだルビーに丸め込まれた結果、俺はクォーツを保護責任者として受け入れることに。
いや、逆か。クォーツが受け入れてくれた。そういう事にしておこう。
「ま、まあこれも俺の誕生石が英石って事で何かの縁だよな。やり直しだ。今度こそよろしくな」
1万歩譲った俺がそう言ってクォーツに手を差し出すと、
「へ、変なマネしたら首から上ぜんぶ、ブチ抜くんだからねッ!!」
と少しだけ頬を赤らめサイコパスなツンデレ感……サイデレ感を出しながらも握手に応えてくれた。
ねぇそれどういう心境なの?
その後、ルビーとクォーツは長い時間を掛けて時代を超えてしまった俺の『引継ぎ』をしてくれていた。俺そっちのけで。
その時のクォーツは疑いが先に来ると思ったが、興味津々で聞いていた事だけが救いだった。
こうして、俺は何の因果か、幾度とない責任転嫁を繰り返された結果、一番最初の持ち主のところへ戻るのであった。
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