1:混乱 to 暴虐の蟹々

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『どうしてこうなった』  俺の思考は次のフェード、つまり現状把握ではなく状況整理に移行。不確かな記憶を遡り思い出してみる。  昨日の俺は最高に幸せだったはず。  シルバーウィークに数少ない有給をぶち込み、社会人になって初めての大型連休に胸を躍らせていたわけだ。  俺の村から都会という海を渡った冒険者こと同級生から「東京に遊びに来ないか?」とのお誘いがあり、連休の中盤まで数日間、至福のダラダラ生活をしていた俺は生まれて初めて飛行機に乗った。 『18時15分発 羽田往き』  初めて乗る飛行機は窓側がよかったが、生憎、連休ということもあり座席指定は出来ず、真ん中のシートに腰を降ろした。  新鮮だった。ドキドキした。田舎暮らしのミーハーっぷりが露呈した俺の瞳は史上最大に輝いていただろう。 まあそうして機内をキョロキョロしているうちに、 「飛行機、初めてなんですか?」  と左隣に座る屈託のない笑顔で話しかけてくれた女性がいて、飛行機よりも先に俺のハートがテイクオフしたわけだ。  話を聞けば彼女は青野(あおの)さんと言って俺より1つ年上の都内の大学に通う女子大生だった。  ロングヘア―のどこかあか抜けない素朴さがまたなんとも言えず可愛らしい女性。  彼女は隣の村出身という事もあって意気投合。会話は自然と盛り上がった。  まあその逆サイドに座る七三分けのサラリーマンはビジネス書片手に迷惑そうな顔をしていたが。  旅は出会いの連続、なんて言葉を思い出すと同時に、彼女とはすげー仲良くなって「東京で俺の友達を紹介する」なんて口実つけてみんなで食事する約束まで取りつけたっけ。  なんかこれから始まるドキドキわくわくに何もかもがうまくいってる感じ。  離陸から1時間ほど経った頃、機内から見える窓の外は天候がひどく荒れていた。 何度も機体を揺らしシートベルトサインが点灯するも不安はなかった。 飛行機は自動車が事故るよりはるかに安全だと前知識があったからだ。  アナウンスで悪天候により視界が悪く、着陸できない機体は羽田空港の手前で旋回していることを伝えられ、着陸は1時間ほど遅れるようだった。  青野さんは不安そうな表情を浮かべていたが俺は逆に男らしいところを、ってことで腕を組み目を瞑ってウトウトした時だった。 ――――!!  突然、機体が大きく揺れ機内の照明が暗転する中、乗客はもちろん、乗務員までパニックに陥っていた。  みんな口をパクパクしているだけで声が出なかったのか、飛行機が異常を知らせるかのような鉄の捻じれた大きな音がかき消したのかわからない。  俺自身はというと、 「え……なになに」  ってな感じでポカーンだった。  パニックに乗り遅れたというか、初めての飛行機で前例がないからこそ異常という現実を受け入れるのに戸惑うしかなかった。 『俺の楽しい連休は終わっちゃうの……』  そんな馬鹿な事を考えていた俺は、次に大きく揺れたとき前の座席に頭をぶつけ、自分の汚れた靴のつま先を見たのが最後。  ここまでは昨日の話で、問題というか大問題なのはここからだ。
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