3:先生 of ラブ鶏ハート

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――――……突然だが。  生きているうちに『騙された畜生!!』と(なげ)く事がいつかはあるだろうと予想はしていたが、まさか本当にそんな日が来るとは思わなかった。  そう、今まさに深い眠りから目を覚ました所なんだが、 「……なんで空が見えんの」  そこに広がっていたのは秋晴れの空だった。  屋外?いやここは屋内だ。正確にはこの青空は屋根に空いた大きな穴を通して見ている。  太陽の位置から今は昼頃だろうか。  異世界生活……いや、近未来生活のわずか3日目。短期間にして我ながらこの時間まで熟睡してしまう環境適応能力が恨めしい。  目を覚ましたら元の時代に…… なんて儚い希望は壊れた屋根の隙間で巣を作る小汚い青色の鳥が『グェグェ!!グギァァァ!!』と下手に歌い狂っている事で、すぐに打ち砕かれた。 焼き鳥にしてやろーか。  秋なのにも関わらず、真夏日にも似た肌を刺すような照り付ける日差し。蒸し暑さ。 ここに来てから思っていたが、俺の住んでいた時代とは気候が少し違うようだ。  腰が痛い。そして頭もズキズキと痛い。  一晩、俺の身体を預かっていてくれたベッド……というにはほど遠い鉄パイプの枠組みに、タイヤみたいな堅さのゴム製マットレス。 枕やシーツ、タオルケットという大切なチームメイトもいないときた。オーガニック過ぎる。  筋肉痛のような痛みと、二日酔いのような気持ち悪さを抑えながら上半身を起こすと、スッと吹き抜ける風が鼻をくすぐる。草の匂いだろうか。  いや本来、吹き抜けちゃいけない風だ。 このそよ風はベッドのすぐ横にあるガラスのない窓、もとい窓枠からのもの。  そこには牧場を思わせる緑豊かな木々と草原。そしてここは2階だ。 ずっと奥にはハーデラの研究棟が見える事から、隔離壁の内側ではあるが、街からかなり離れているのが伺える。 「……はぁ」  なんか昨日の出来事を段々思い出してきた俺はベッドに座ったまま、大きな溜め息をつき20畳ほどの部屋に目をやる。  雨漏り、そよ風、隙間風。その全てを受け入れてくれる木造建築の壁と床。  もう一つの大きな窓枠からは、定期的に部屋中に影を作り出す木製のプロペラが見え隠れしている。そう、ここは壊滅寸前の風車小屋だ。  昨日嘘が嫌いな軍人はこう言ったはず。 『(ほこり)だらけの男くさい部屋より女の部屋の方がいいだろ』と。  確かにそう思った。ルビーの言う通りだと思ったよ。  女の部屋に入るなんてのは、幼馴染の里美(さとみ)ちゃんの家に遊びに行った時以来だ。当時の俺は小学生だぞ。  性格に災害級の難はあるが、脳内でその記憶に高速ブレーンバスターを決めて抹消すれば相手はハーフ顔の可愛らしい女の子だ。  19歳の健全な青年男子が女の部屋と聞いて心半ばカーニバルだったのはいうまでもないじゃないか。男なら当然だろ。  だがこれはなんだ。  今にも崩れ落ちそうな天井には、やかましい鳥の親子が住居を構え、そこから垂れるケーブルの先には林檎ほどの大きさのヒビ割れた裸電球。  行方不明の窓ガラスたち。花柄の壁紙かと思ったら魔界染みた謎のシミ。  床に落ちている幾多の薬きょう。傾いたテーブルには武器弾薬のパーツが散乱。 テトリスみたいに積み上げられた謎の木箱。落ちている酒の瓶。お菓子の袋。壁の穴に刺さったファッション雑誌。  どこのナイトメアだこの野郎。  突っ込みどころがあり過ぎんだろ。  ただのイカれた女の部屋じゃねーか!!
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