第一章

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きっかけはたぶん些細なことだったと思う。 包丁の刃で指を誤って切ったとか、割れたガラスが刺さったとか、たぶんそんなんだったはず。まあ、よく覚えてないけど。 でも、その時見たものはよく覚えてる。 最初は赤い珠がゆっくりと膨らんでいって、あるところで堪えきれないみたいにふるふると震えてから、つっと雫が流れ落ちていって、赤い筋が残ったんだ。あまりにも溢れ出た血の赤が綺麗だったから見惚れてて、雫が床に滴り落ちそうになったのに気付いて慌てて舐めとった。血液だから当然だけど、鉄の味がした。でも、それ以上にとても甘い、甘美な味が舌に残ったんだ。 それからは、落ち込んだ時に赤い珠を見るようになった(そういう時何故か無性に見たくなったし、あの時の甘美な味が忘れられなかったのもある)。 カッターの刃で指先をちょっぴり切ると、一粒の珠がゆっくりと出来上がる。でもちょっぴり過ぎるとすぐに赤黒く変色してしまうから、それを舌で舐めとり味わう一方で、指先を強く押し、また滲み出てくるのを待ってたりした。 指切るのは二、三回しかやらなかったかなァ。 細かい作業がやりにくくなったし、あんまり血出ないしで。 次は手首下だった。 コレ、いわゆるリストカットになるなぁとか思ってたっけ。 カッターで紙でも切るかのようにすーっと切る。切った線に沿って血が滲み出るけど、他より深くなったところはぷくって膨れて珠になる。
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