レフィエールの兄弟

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「ここ最近、空からよく人間やエルフの姿をよく見るようになった。昔はどこまでも広い森だったのだが」  壮年のドラゴン使いが物憂げに言った。髪には白いものがちらほら混じっている。 「薬草を探してこのイリス……レファントの地に迷い込む者まで出てきた。トレアン、あの娘の容態はどうだ?」  中年の一人がそう言って、トレアンの方を見た。小さな息子を抱えた他の男も、その方向を見る。 「傷口はふさいだので、後三日もすれば大丈夫でしょう。しかし、彼女の家の親が熱病らしく、本人は早く帰りたがっている」  その場はしんと静まり返った。皆が渋い表情をしている。 「……この豊かな土地に住んでいることを悟られぬようにせねばならんな。近頃は西で大凶作だったとか聞いたが」  また他の誰かが言った。トレアンは少し後悔し始めていた。あの娘がもし自分の家に帰れば、迷わず自分達のことを命の恩人として言うだろう。カレンは善意から言うだろうが、それを聞いた別の人間がこれをどう思うだろうか。  と、膝の上に息子を乗せて、男が言った。 「そうだトレアン、君は転移と忘却の術を使えた筈だ。あのカレンという娘を安全に送り届けて、我らも安全に暮らすことが出来るには、それがいいんじゃないか?」 「それは妙案だな、アドルフ」  壮年のドラゴン使いが感心したというようにそれに賛同する。だが、このレファントの地が他の種族に知られるのはもう時間の問題だ、とトレアンは思った。でも、これから三日もカレンをここに留めておくよりかはずっとましに違いない。彼自身もそうだな、と呟いて、すっと立ち上がった。 「その村を空から探して来ることにします。そうと決まれば、私は急ぐ性質なので、これで」  息子の小さな手を操って振らせながら、アドルフが言った。 「気を付けて、トレアン=レフィエール……アミリアの血を受け継ぎし者よ」 「アドルフ=リーベル、一族で最も気高き者よ。そなたにも光の加護があらんことを」  場所さえ知れば、転移の道を開くことが出来る。トレアンはその場を離れ、オーガスタの方へ向かった。
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