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「姉さん、最近何処に行ってるの?」
外は雨が降っている。タチアナは小さな窓から手を伸ばして雨水を弄びながら、近くにいる姉に問うた。見える空は灰色に曇っていて、当分青い空は拝めないだろうと思ってしまう。
「友達のところよ」
カレンは読んでいる本から目を離さずに答えた。数百年前の歴史が文字になって、自分の前に小さくなって存在している。彼女は今、アミリア=レフィエールの生い立ちを辿っていた。秩序の象徴であるペガサスを捕らえ、私怨からその姿を黒く変えて人に危害を加えさせる生き物にしてしまっていた、当時の若き王に対抗する組織である“アルジョスタ”の主導者。まだ自分よりも若かった頃に人々を率いた、少女。
「……どんな友達なの?」
タチアナの声には、好奇心と猜疑心が入り交じっていた。友達……アミリアにもそのような存在はいたのだろうか、と思って、カレンは再び本に目を落としたまま喋った。
「父さんと母さんが倒れた時にね、私が薬草を探しに行って、たまたま助けてくれて、よく効く薬をくれた人達なの。あの薬は確かエル=シエル・ハーブを煎じたもの、だったかな」
妹は手の中に溜めた雨水で形を作りながら、ふうんと言った。
「前の、姉さんの肩の傷もその人達が?」
「ドラゴンにやられたのを手当てしてくれたわ」
それを言った途端、タチアナが息を呑むのが聞こえた。
「どうかしたの?」
「姉さん、そんなに森の奥まで入ったのね……」
母さんや父さんの言いつけに背いて。その声には批難の色が混じっている。そこでカレンはやっと顔を上げた。
「タチアナ」
自分と同じ青い瞳に向かって、彼女はよく通る透き通った声で言う。
「タチアナは、母さんや父さんの言いつけと、母さんや父さんの命と、どっちが大切だと思うの?」
タチアナは悔しそうに押し黙ってしまったが、ややあって挑戦するかのように再び口を開いた。
「……母さんや父さんがああ言うのは、第一に、あたしや姉さんを守る為だと思うのよ。あたしが母さんだったら、もし熱病にかかってても、自分の為になんて理由で自分の子供にそんな所に行ってほしくない」
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