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「……そっか」
じゃあ、とカレンは本にしおりをはさんで閉じながら言った。昼間で窓から光が入ってくる時間帯なのだが、いかんせん雨のせいで空が暗すぎて家の中も暗くなってきたからだ。空の雲の黒さはさっきよりも増している。
「私達は何の為に術を使うのか、不思議ね。生きていく為に、皆は使っているんだと思うんだけど」
タチアナは喋らない。沈黙は次を促していた。
「今みたいに厳しい状況でも生きていく為だと思うの。確かに、入っちゃいけないって言われるぐらい、あの森は危険よ。だけど、生き残る為には、あの中に入って行かなくちゃならない時だって、あると思うの。そして」
カレンは立ち上がって、妹に向かって微笑みかけた。
「私が生きる為には母さんと父さんが必要なのよ。従って生きるんじゃなくて、お互いに助け合って行きたいの」
何処かに取り残されたような表情で、タチアナは宙に水の造形物を浮かせていた。
「もちろん、あなたへの想いにも変わりはないわ、タチアナ」
妹はうつむいて、でも次の瞬間には真っ直ぐ姉の方を向いて言った。
「でも、もし離ればなれになって会えなくなったら、その時はどうやって助け合うの?もし、皆がこの先いなくなったら、姉さんはどうやって生きていこうとするの?」
「……人は、変わっていくわ。何も、出会うのは家族だけじゃないもの」
カレンはそう言って、穏やかな表情で窓の外を見た。友人の正体は、今は明かさない方がいいだろう。
「大切なものを守る為に、私はこの力を使うわ。もちろん、私自身も守る為にね」
タチアナは宙に浮かせた水の造形物を自身の力で凍らせ、窓の外に放り投げた。そして、部屋の中を歩いて何処からかロウソクの太いのを一本持ってきて、姉に手渡す。
「――暗いわ。でも、姉さんは明るい」
カレンは小さく声を上げて笑い、言った。
「今の友達のおかげよ」
野蛮でも何でもない、同じものを共有出来る人達。彼女は今確かに、大切なものを増やしていた。
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