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母さんは土で、父さんは風。木の上から、地面に座っているドラゴン使いの兄弟に向かってカレンは言った。森の中は昼間でも涼しくて、また沢山の発見があって、彼女にとってそこは何時間いても飽きない場所になっていた。
「だから、そなたはここの土地は母君が喜ぶだろうと言っていたのだな」
トレアンが周りをキョロキョロ見回しながら言った。そして何かを見つけたかと思えば、丸い葉の形をした草を根元から抜く。
「知っておくといい、これがリキュアラ=ハーブだ。そのままでもいい、食すれば大抵の毒を中和させることが出来る」
そして、とその後を続けたのはテレノスだ。少し乾き気味の土の上に、彼はいくつかの草を見つけて一本を引っこ抜いた。つるがくるくると巻いている。
「マメの一種だよ。水がなくても、ある程度痩せてる土地でも普通に育つし、食べられるんだ。まあ、肥えた土地の方がいいに越したことはないんだけど」
「母さんも村の皆も喜びそうね。いくつか持って帰ってもいいかしら?」
カレンがそう言うと、ドラゴン使いの兄弟は顔を見合わせた。何か問題でもあるのだろうか?
「うーん、いいと思うんだけど」
テレノスが自信なさげに呟いた。トレアンは少し考えてから、弟の後を受けて言う。
「村の人間がそなたに訊くだろう、それは何処にあったのか、と。私達の存在があってもなくても、いずれ人間はこの土地を欲して近いうちにレファントへと進出してくるだろう」
カレンは、木から降りた。兄の前に立って首を傾げる。
「つまり、あなた達が圧迫されるのね」
「その通りだ、それでなくても森のすぐ向こうには……」
人の村が既にある。トレアンはあえて最後を言わずに、目の前に立つ彼女から目をそらして、すぐそばの大きな木の幹に触れた。生命の脈打つ音が今にも聞こえてきそうだ。
「じゃあ、やっぱりやめとくわ」
「……そうか」
さらりとした会話に、テレノスが割って入った。
「何で?村の皆ももうちょっと助かるんじゃないのかい?」
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