53人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉に、カレンは少し笑って弟の方を向きながら、その場にしゃがみ込んだ。スカートの裾が地面に触れるが、気にすることはない。
「トレアンが今言ったみたいに、私達がそれを知ってしまえばあなた達を傷つけてしまうかもしれないわ。そこまでして豊かになりたいわけじゃないし」
「……そっか」
テレノスは少し照れくさそうにして、自分の座っている地面を見つめた。出てきたばかりの小さな草の芽を見つけて、呟く。
「……カレンは優しいよな」
「え、そう?」
目をぱちくりさせた彼女に向かって、彼は顔を上げてうん、と頷いた。さあっと風が吹いて、木漏れ日が優しい音を立てて髪を揺らす。
「なあ、兄さん」
急に話を振られたので、トレアンは戸惑いながらも口を開いた。
「あ、ああ……そうだな。能天気なそなたと違ってな、テレノス」
「な……っ」
テレノスは口元を引きつらせたが、すぐに兄の気持ちが読めたらしい。その次にはにやりて笑って、あさっての方向を向いたままのトレアンに向かって勝ち誇ったように言う。
「……照れ隠しの材料に俺を使うのはちょっとひどいよな」
「う、うるさい」
顔を赤くして批難するような目を弟に向けた兄を見て、カレンは思わず吹き出した。それを見てテレノスも笑い出し、トレアンは再び別の方へ顔を向ける。
「いつか時が来たら、私の家族にあなた達を紹介したいわ」
彼女がそう言えば、弟がすかさず添えた。
「出来るさ、絶対に。なあ、兄さん」
「……土と風の使い手か、是非会ってみたいものだ」
あっという間に調子の戻ったトレアンはそう呟いた。ふと思いついて、カレンはその横顔に向かって尋ねる。
「ねえ、あなた達の両親のどちらかって、術使いの素質があるんじゃなかった?」
兄弟が、一斉に彼女を見た。何かまずいことを言ったのかと思ったが、テレノスが明るい口調で言う。
「ああ、うちは父さんがそうだったな」
「……だった、って」
「気にするな、カレン。流行り病で数年前に両親はいなくなったが、それはレファントの地で多くの者が経験したことだ」
最初のコメントを投稿しよう!