レフィエールの兄弟

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「墓だけはいい所にたてたよなー、皆」  テレノスが苦笑しながら歩いていく。二人はしばらくその景色を眺めてから、また振り返って先を行く弟の後についていった。腕くらいの厚さのある石の板には何やらカレンには読めない文字が彫られていて、それはいくつも立っている。いくつもの石の横を通り過ぎて、やがて辿り着いたのは一番奥のひとまわり他よりも大きな石標の前だった。 「……八十日ぶりか」  トレアンが呟いて、手をかざした。光の玉が数個放たれ、石標の立つ墓の回りを駆けめぐって空へと消える。 「人の念は強い。たまにこうしておかねば、溜まってきたものがレフィエールの何かを呼び起こして、嫌なことが起きる。数十年前にあったそうだ」  そう付け加えて、彼は静かに目を閉じた。テレノスもカレンもそれに従って、何も見ずに風の音を聴いた。鳥の歌う声がかすかに森の向こうから聞こえて、丘の下からは誰かの声がまた聞こえる。きっと、ドラゴン使いが仲間を呼んでいるのだろう。ドラゴンの唸る声も、一回だけ聞こえた。  しばらくして、目を開けたテレノスが言った。 「兄さんみたいなドラゴン使いの術士は、代々こういった穢れを取り除く力も持ってるんだ」  それは小声で、しかしとてもよく聞こえて、カレンは答える代わりにもう一度目を閉じる。たった二人で、仲間に支えられてきた兄弟に向かって、小さな祈りをささげた。
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