Prelude

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「アール エネイス フレーニャピラー……炎よ、罪深き者を打ち砕け!」  その術が当たったかどうかも確かめず、カレンは腰に差していた二本の短剣を抜いた。そうしてあらためて敵の方を振り返ると、それは青灰色の巨体をくねらせ、彼女を睨み付けている。腹の肉がえぐれ、どす黒い血が噴き出していた……どうやら術は直撃していたようだ。上手く使えたのだ。  だが、相手方は相当怒っているようだ。痛むのだろう、腹の傷のせいで動きは鈍くなっているが、物凄い咆哮がカレンの耳をつん裂いた。思わず顔をしかめて耳をふさげば、すかさず太い首がとんでもない速さで襲ってきたので、転がってよけた。ぱっと立ち上がれば大きな牙がもうそこまで来ていて、咄嗟に盾の呪文を唱える。だが、それもドラゴンの顎の大きな噛みつき一回で、破られてしまった。  速い、これでは勝てない。でも、ここでやられるわけにはいかないのだ。どうしても薬草を持って帰らなければ――  三回目が、よけられなかった。右肩を背中から牙が貫通し、カレンは激痛に声を上げた。血がどくどくと噴き出し、急速に意識が遠のいていく。その時誰かが叫ぶのが聞こえた。 「ヴァリアント、ネー ストーフィア!」  ああ、誰か助けに来てくれた。そう感じた瞬間、全てが暗転して何もわからなくなった。
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