レフィエールの兄弟

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 どうしてだろう。トレアンがよそよそしくなった理由を考えながら、彼らの家へと人に見られないようにこっそり移動する。何かまずい事をした覚えなど全くないのに、いきなりどうしてしまったのだろうか?自分に対する何かわだかまりがあるのなら、尚更言ってもらわねばならない。  何処かしら、トレアン。彼女はきょろきょろとあたりを見回した。 「――人間、そこで何をしている」  語気の荒い言葉が刃物のように背中と耳に突き刺さって、カレンは飛び上がって声の主のいる方を咄嗟に向いた――また、黒い髪に鳶色の瞳。でも、トレアンでもテレノスでもない。 「――ああ、びっくりした」 「我々の土地に何の用だ」  男は、その手に短槍を構えていた。年の頃は三十を過ぎたあたりだろうか、その体は見事に鍛え上げられていて、一分の隙も見えない。彼女はごくりと唾を飲み込んで、言った。 「あ……怪しい人間じゃ、ないわ。私はただ、人を探していて――」 「――それは、誰だ」  男の表情は崩れることなく固いままで、短槍はまだ構えられていてぴくりとも動かない。鋭い眼光に気圧されそうになりながらも、カレンは何とか口を動かした。 「……トレアン、トレアン=レフィエールよ。私の友達なの」  そう言うと、男は何か気になることでもあったのか、眉間にしわを寄せてつかの間硬直した。やがて、彼はふっと表情を緩めて、さっきよりも幾分か柔らかな口調となって言う。 「……ふむ。とすると、君がカレンという娘か」 「えっ、何で……知って?」  男は、短槍を握った手を下ろした。 「アドルフ=リーベルという。君のことはテレノスからも聞いた、ドラゴン使い一族をまとめ上げる頭領だ。やっぱり、我々を見て逃げる者共とは違って、肝が座っている」 「……は、はあ」  誉められているのかけなされているのかよくわからなくて、カレンは間の抜けた返事をした。 「それで、トレアンを探しているんだろう?」 「……あっ」  そうだ、思い出した。トレアンを何となく探していたのだ。アドルフが言う。 「彼なら、家だよ」
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