レフィエールの兄弟

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「ありがとう、えっと……アドルフ」  親切にも教えてくれた頭領に微笑んで言うと、相手もそれまでの厳しい表情とは打って変わった気さくな笑みを返してくれた。 「あんまり他のドラゴン使いに見つからないよう、気をつけて」  最初に会った時はびっくりしたが、こちらも思ったよりいい人だったと感じながら、カレンは森の中に再び消えていくドラゴン使いを見送った。そして、この一族の人々が人間をどれだけ信用していないかということも、同時に感じさせられた。  残念ね、と呟いて、兄弟の家へと向かう。初めて来た時よりもまわりの景色に溶け込んだように見えるそれには、既に植物のツルが数本からまり始めていた。戸を数回叩いて、二人の名を呼びながら引いて中に入った。 「あら、返事がなかったから誰もいないのかと思ったけど」  ひょいと一方の部屋を見れば、そこではトレアンが薬草を何やら煮詰めながら、猫のようにゆっくりとカレンの方を向いた。 「……ちょうど手が込んでいた」 「テレノスは?」  彼女がきょろきょろしながら言うと、レフィエールの兄は煎じ用の鍋から目を話さずに答えた。暑いのだろう、彼は今日も上半身むき出しである。 「仕事だ」  いつもと何ら変わりはない。彼女はそう思った。だけど、何かが違うような気がしてもう少し尋ねてみる。 「へえ、どんな仕事なの?」 「運び屋」 「それって、やっぱりドラゴンで運ぶのよね。あ、そうだトレアン、何か私に手伝えること、ないかしら?」 「……静けさを保つのを手伝ってくれ」  やっぱり、トレアンは顔を上げなかった。その鳶色の瞳は、ずっと手元を見つめている。カレンはしばらく作業を見守っていた。  互いに一言も喋らなかった。ドラゴン使いは煮え立つ鍋を火から下ろし、傍の桶の水を手ですくって火にかけ、消した。それから長い溜め息を一つついて、首と肩をぐるぐると回す。骨の何処かがコキリと鳴った。 「あ、肩ぐらいなら揉んであげられるわよ」 「……いや、必要ない」  差し出したカレンの手を見ずに、トレアンは鍋の両端を持って立ち上がった。丈夫な棚の上に鈍い音を立てながら安定させる。 「でも、相当凝り固まってる音してたわよ?」
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