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素直じゃないんだから、と彼は苦笑してから、そこらに適当に腰を下して相手の青い瞳を見る。
「……ありゃ、つまんない嫉妬だよ。言ってたことの中に自分の知ってる他人の名前が出てきたら、絶対に兄さんはそうなんだ」
「あっ……そういえば」
そういえば、とカレンはトレアンが言ったことを思い出していた。――セスは、私のような者と違って、素直で気配りの出来る立派な人間だと思う。
「セスのこと、言ってたわ」
「……何でまた彼が出てくるんだ?」
カレンは眉間にしわを寄せた。
「……二人だけで、喋ったことがあるのかしらね。セスは、一年以上前からずっと私に一緒にならないか、って言ってくるんだけど」
「……君にはその気はないんだ?」
「ええ、まだまだやりたいことは山のようにあるから」
テレノスはふむ、と唸ってから、しばらくしてまたこう言う。
「……兄さんには何を?」
言われて、彼女は溜め息をついた。あの時、トレアンは一体何を考えてあのようなことを言ったのだろう。
「そろそろ応えてやったらどうなんだ、人を何年も待たせるのは賢明だとは思えない……って」
「……ああ」
テレノスも沈痛な面持ちで溜め息をついた。
「――そりゃ特大の嫉妬だ」
「何で?何に嫉妬する必要があるのかわからない」
今度は、膝の上の左手に彼の右手が慰めるように重なった。目の前の若いドラゴン使いは少し笑って、優しい声で言う。
「兄さんは、素直じゃない。素直じゃないから、あんまり本心を出そうとしないんだ。俺だって伊達にずっと一緒に生きてきたわけじゃないから、兄さんの気持ちはよくわかる。人に、色々話してしまうと、弱みなんか握られたりすることもあるし、また別の人からの重い話なんかも一緒に背負って悩んだりするんだよ、実際に。ずっと前に、色々とそういうことで苦しがってた時期があったから」
話の繋がりがよくわからずに、カレンは数回まばたきする。見下ろすと、大きな手が自分を安心させようとして少し力が入るのがわかった。
「セスはきっと、兄さんに向かって、君に長いこと振られっ放しだって軽く言ったんだろうね。そんなに軽く言えたら、どれだけ自分も楽かって、いつか叫びたいんだと思うな……叫びたかったんだろうね」
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