レフィエールの兄弟

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 天井をずっと見ていると、木の梁がだんだんとはっきりしてきた。まだ切ったばかりの木材の匂いもする。この家は建てたばかりなのだろう、そっと頭を動かして別の方向を見ると、木屑が少しだけ落ちていた。悪くないな、と思った。  しばらくすると、テレノスと名乗った彼が戻ってきた。何やら大きめの壺を二つ抱え、新しい綿布も持ってきている。 「傷を見させてもらうよ、かなりひどい状態だろうから……うわあ」  されるがままに手当てを受けながら、鈍い痛みの中でカレンは目の前の男を観察した。空を舞う鳶のような色の瞳に、短めの黒い髪。身に付けている服は麻で、じめじめとしたここらの地にあうように首元が大きく開いている。自分の肩に薬が塗り込まれて行くのが伝わってきた。大きな手だ。 「私は――」 「どうしたんだ?」  カレンが呟けば、その鳶色の瞳は真っ直ぐと自分を覗き込む。 「――いつから、ここに?」  テレノスは少し口元を緩めて、言った。 「昨日からだよ。やってくれたね、君は。俺のパートナーにあんな深い傷を負わせるなんて」 「……あ、あなたの」  何ということだ。カレンは後悔した。あの青灰色のドラゴンは、このドラゴン使いのドラゴンだったのだ。彼女はかすれた声を出した。 「ごめんなさい、私――」 「いやいや、ヴァリアントも悪かったのさ。こんな所まで人が来るなんて珍しいからって近寄って行ったら、火魔法食らって思わず噛みついてしまった、って言ってた。彼も後悔の海の中だよ」  テレノスは苦笑しながら、薬壺のふたを閉めた。そして、ふと気が付いたように言った。 「でも、君はあんな所で何をしていたんだ?」 「私は……急な高熱と吐き気によく効く薬草があの森にあるって聞いて採りに来たんだけど……迷っちゃって」 「葉の形は知っているのかい?」
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