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肩の傷は再び綿布で巻かれ、作業中の痛みは和らいだ。カレンは少しだけ考えて言う。
「全体的にギザギザで、触ったらその裏に小さな毛が沢山あるの。早くしないと、村の人にも迷惑だし、両親も……」
動けたらいいのに。彼女は唇を噛んだ。
「エル=シエル・ハーブのことか……兄さんに頼んでみれば、分けてくれるかもしれない。この薬も兄さんが分けてくれたしね」
と、入り口の方で何やら大きな音がした。テレノスがあっ、と言って、カレンの方を向いて言った。
「ちょっと待ってて。多分兄さんだ」
彼女はまた考えた。薬が手に入ったら、もし分けてもらえたら、傷をそのままにしてでも家へ戻ろう。戻って、薬を両親に飲ませよう……そして、ドラゴン使いはいい人だったと言おう。そこまで考えて、私は帰り方を知らないじゃないの、と気付いた。
「兄さんだ。君を連れて来い、って言ってるんだけど……抱えあげられるのには慣れてるかい?」
テレノスが、戻ってきて言った。カレンはこくりと頷き、またされるがままに頑丈な腕に抱えあげられる。彼は右肩の傷を気遣うように色々と手の位置を変え、下手でごめんと言って少し顔を赤くした。
「そなたが言っていたのはその娘か、テレノス」
家の外へ出ると、銀白色のドラゴンとともに、また黒髪の男が手に何やら色々持って立っていた。瞳の色も、テレノスと同じだ。
「薬草探ししてて、迷っちまったらしいんだ。で、俺のヴァリアントの阿呆が、近付いて行っておどかして火魔法食らってやがんの。俺が止めた時には、右肩に牙がぐっさり」
「そうか……すまぬな、愚弟のせいで。私の名はトレアン=レフィエールというが、そなたの名は?」
テレノスとは逆に、トレアンの髪は肩にかかるぐらいで、それを後ろで束ねてひとまとめにしている。カレンはあまり喋りたくなかったが、無理矢理口を開いてさっきよりもかすれた声で言った。
「カレン=ミストラル、これでも人間です。お薬、ありがとうございます」
「いや何、人を助けるのが私の仕事でもあるからな。ドラゴン使いだとか人間だとかは関係なく」
トレアンは少し傷を見るぞと言って、今しがたテレノスが巻き直したばかりの綿布を取るために、カレンをそうっと地面に下ろさせるように指図した。銀白色のドラゴンが唸る。
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