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「……これはひどい」
顔をしかめると同時に彼の手から光が放たれ、薬が塗り込まれた右肩を覆う。かざしていた手をどければ、大きな傷口は太く赤い線を残してふさがっていた。
「オーガスタが出る幕でもなかったみたいだな」
銀白色のドラゴンをちらりと見て、テレノスが呟く。開いたままだった傷の痛みが取れて、カレンはすう、と大きく息を吸った。
「もう楽になった」
自然と口元がほころんで、嬉しくなってそのままトレアンを見る。どういう訳か彼は顔をそらした。
「ありがとう、これで動ける」
「礼なぞ、必要ない」
ドラゴン使いの兄はそっけなく言って、立ち上がってオーガスタというらしいドラゴンの方を向いた。その振舞いに顔の笑顔が落ちかけたカレンを見て、弟がにやりと笑いながら小声で言う。
「大丈夫さ、ありゃ兄さんの照れ隠しだから」
「――テレノス」
と、振り返ったトレアンが左手を払ったかと思うと、テレノスの額に何かが嫌な音を立ててぶつかった。地面に転がったものを見れば、片手で握れるほどの石ころだ。
「な……何すんだよ兄さん!」
頭を押さえてそう叫べば、苦々しい返答が返ってくる。
「やかましい、阿呆。いらんことを喋るな!あと、カレン」
向き直った顔も苦々しい表情なのだろうかと思いきや、僅かに朱が差していて、唇は真一文字に結ばれていた。この人、今自分の弟に向かって石を投げたよね。
「傷口はふさがっても、最低三日はあまり動かない方がいい。しばらくここから出ないことだ」
「えっ、三日も……?」
ああそうだ、とテレノスが言った。
「あのさ兄さん、カレンの家さ、親が熱病かなんかで大変なんだって。エル=シエル・ハーブの薬、あったよな?二人分ほど分けてやってくれないかな。急ぎの用らしいんだ」
トレアンは黙って聴いていたが、やがてこう言った。
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