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「……誰が、この娘の家まで運ぶのだ」
大体、と彼は続けて言った。カレン、そなた、自分がどの方角から来たのかわかってはいないだろう。
テレノスが黙りこくった。しかし、カレン自身はすっと顔をあげてよく通る澄んだ声で、言う。
「いいえ、多分大丈夫よ。この森の近くになんて、私達人間やメイジやエルフは住まないから。本当に近くにある村なんて、私の住んでる所ぐらいよ。それに、今回のことといい、私は運がいいみたいだし」
「そう簡単に二度目があると思うのか?」
トレアンは腕組みをして言った。
「ヒュムノメイジをなめてもらっちゃ困るわ」
カレンが口の端を少しだけつり上げて返すと、相手は溜め息をついた。
「……どうやら縛りつけておく必要がありそうだ。テレノス、その娘を固定し終えたらすぐに私の所に来い。患者に死なれるとこっちの格も下がるからな」
そう言い残して、トレアンは二人を振り返らずにオーガスタと共に行ってしまった。テレノスがまた苦笑して、カレンは座ったまま不安になって彼を見上げた。
「大丈夫、あれも照れ隠しの一種だから。兄さん、素直じゃないんだよ……きっと、何とかしてくれるさ」
さあ中に入ろう、と言われ、カレンも少しだけ笑ってその場で立ち上がった。踏みしめた土の感触は固くて、久しぶりに歩いたような気がした。
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