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「やっぱ右がいいな」
「樹は左でしょ?あたしも左にしようかな」
「俺、聞いたことあるんだ。男は右、女は左だけだとゲイだって」
「何、それ?」
「自分はゲイだってサイン」
「うそっ?」
「ほんとかどうか知らないけど、俺はそう教えられたから左にした」
「ふぅん」
「ひろは違うから右だよ」
樹はあたしの目を覗き込んだ。あたしはドキドキしながら樹の目を見返していた。
髪を掻きあげて右耳を露出させる。樹の指があたしのうなじを滑る。左手の薬指のリングがきらりと光を反射する。
「少し横向いて」と鏡の中から笑いかける。
鏡越しに見つめ合うのが、こんなにドキドキすることだなんて知らなかった。
「この辺?」と樹が指さしてあたしは無言のまま「うん」と頷いた。
樹の唇が右耳の下に押しつけられる。ぴくんと震える。樹はそのままであたしを上目使いに見る。
「ふふ。何、緊張してるんだよ。鼓動、すっげぇ速い」
「だって」
「すぐ済むよ」
「でも痛いんでしょ」
「一番最初のエッチよりは痛くないよ。たぶん」
さっきからあたしはとてもドキドキしている。
なのに、樹はそんなあたしを見て楽しんでいる。
体の奥の下の、どこにあるのかわからないくらいずっと深いところで、じんじんとしびれるような感じがする。
何をほしがっているのか、わかってる。
ああ。もう限界に近い。
心臓がどきどきしてほっぺが熱い。体から熱気が上がっていきあたしの周りに陽炎が立つ。
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