50人が本棚に入れています
本棚に追加
樹はもったいぶってピアッサーを取り上げて鏡の中で、にやっと笑う。
あたしの気持ちを、樹は読んでいる。あたしは目を伏せた。これ以上、樹に知られたくない。
「だめだよ。ひろ、ちゃんと見て」
優しいのに抵抗できないような樹の口調で、あたしはマリオネットみたいに顔を上げてしまう。恥ずかしいのに。
「いつも言ってるだろ?入れるときはちゃんと俺を見ろって」
樹は目を逸らさない。あたしの目を捉えたままピアッサーで耳を挟む。
あたしは何かが溢れ出してくるような気がして、逃げ出したい気分になる。
でも、それを樹は許さない。
どきどきするのは、それがいつなのかがわからないから。
それは、樹が決めること。
「ひろ、傷が落ち着いたらお揃いのピアスしような。プラチナでダイヤのやつ」
「でも、高いんじゃない?」
「大丈夫だって。俺が買ってやるから」
「うん」
「俺とひろはずっと一緒だよ」
「うん」と返事しようとした時、いきなりぱちんと来た。
びっくりして「痛っ!」と声を上げた。
樹は顔色も変えずに薄く優しげな笑み浮かべたまま、あたしの耳に穴をあけた。
そして、あたしの耳を貫通したファーストピアスをくりっと動かす。ぴりっと痛みが走ったような気がした。
「消毒して1日1回でいいからこうやって。動かしとかないとピアスに肉が絡んで動かなくなるから。ひろの肉は、絡みやすいもんな」
最初のコメントを投稿しよう!