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「はぁ…」
卯月は盛大なため息をついて、それから少し離れた場所に座っている教え子を見た。
彼の名は、ちはや。
ある事件(?)を切っ掛けにして卯月は彼と親しくなり、それからというもの何かと縁がある教え子だ。
彼の髪の色はとても特徴的でその大部分は茶系であるものの、聴覚器官を隠してしまっている一部の髪のみが白髪になっている。
聴覚器官が見えなくなっている上に、亜人(デミ・ヒューマン)が有する耳と見分けがつかないため、卯月も最初のころは彼が人間ではなく亜人(デミ・ヒューマン)だと思っていた。
誤解が解けたのは、他の生徒たちが彼の髪をいじっている場面を目撃したからで、それがなければ今も誤解していたかもしれない。
見られていることに気付いた彼は、卯月に向けていつもの笑顔を見せる。
「ちはやはいいよな」
そんないつもの笑顔を見つめながら、卯月は心底から羨ましいというような、そんな声でそう口にした。
当然、意味がわからないちはやは首を傾げている。
「はい?僕のなにがいいんですか?」
そして、これもまた当然のように質問を口にした。
彼が悪いわけではないのに卯月はムッとした顔で、自分の膝の上にある物体を指差した。
そこには食べかけのお弁当が鎮座している。
「お弁当」
あぁ…なるほど…と一旦納得して、それからもう一度ちはやは質問を投げかけた。
「えぇ…っと?料理が出来るってことですかね?」
おそらくこれがこの話の本題なのだろうと、そう思いながらも彼は卯月に質問していた。
質問を受けた卯月は、これもまた…面白くないという顔をしている。
「わかってるなら確認するなよ。凹むだろ、わたしが」
卯月自身も理不尽なことを言っていると思いながらも、なんだか悔しさもあって彼をなじるような言いようになってしまった。
生徒に向かって教師がいう言葉ではないとはわかっていても、ちはや相手では教師というより卯月本人が出てしまう。
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