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「すみません。…それでそのことがどうかしたんですか?」
言葉の足らない卯月自身に非があるのだが、そんなことは問題にならないのか、彼はいつもの物腰を崩すことはなく静かに優しく問いかける。
「ズルイ」
たった一言、答えになっているのかなっていないのかわからない答えを卯月は返していた。
「え…?」
お弁当と料理とそれに続いて「ズルイ」とは、何が言いたいのだろうか?とちはやは再び首を傾げる。
その動作がまるで大型犬のようだと思いながら、卯月は一旦切ってしまった言葉を続けた。
「わたしだって女なのに」
卯月のこの言葉で合点がいったのか、ちはやは小さく頷いて理解したことを卯月に知らせる。
「女性だから出来なきゃいけないってことはないと思いますよ?」
ごく自然にそう言いながら、ちはやは空になった自分の弁当箱を片づけていた。
その動作を眺めながら、卯月はやっぱりなんだか悔しくて、ぶちぶちと文句を口にする。
「お前はそうかもしれないけど、一般的には違うだろ」
これも生徒に対して教師がいう言葉ではないよな…と、心の端っこで思いながらも出てしまった言葉を飲み込むわけもいかず、卯月は吐き出してしまった。
そんな卯月の心の内など知る由もなく、ちはやは相変わらずの笑顔を見せている。
そして、年齢に似合わぬ達観した意見を口にした。
「一般的には違っても、お互いに補い合うのは自然なことです」
この言葉には卯月も黙ってしまい、続きを催促するように彼を見つめた。
困ったように小さく笑いながら、ちはやは催促された続きを口にする。
「あなたが出来ない分、僕がすればいいことでしょう?ごくごく自然で、簡単なことですよ」
生徒に諭されるとは教師として如何なものか…、卯月はそのことが恥ずかしくなってしまい、耳まで赤くなってしまう。
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