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〈1〉最初の終焉
死ね、死ねと念じた。念じただけではない。手には、茶色く錆び付いた血生臭い鉄パイプが握られている。しっかりと。
深夜の田圃には、夏草の独特な臭いと平静、月明かりを水面に映した、都会では味わえない幻想的な雰囲気があった。
その中心で、蠢動するモノ。それは、紛れも無く人だった。
最早、それは語る口を持たない。歯は砕け、目は陥没し、手には腹部から飛び出した臓物を抑えた際にべっとりと付着した、夥しい量の血が。
水面に広がって行くそれは、差し詰め血の花といったところだろうか。綺麗な反面、臭い。
最後の一撃を加える間際に、それは言った。「私じゃない、私じゃ、ないよ……」と。
果たして、蠢動していた身体は穏やかに止まり、水面に漂う肉塊と化したわけだが、釈然とした気分にならない。
最期の言葉は、きっと嘘だ。他の誰があんなことを出来る。 自らの行為を正当化しようと言い聞かせ、しかし、それすらも気分を晴れやかにしてくれず、苛立ちを募らせた。
やらなければやられていた。これは間違いない。それに、誰もこいつが犯人だとは気付いていなかったはず。つまり、
「救ったんだ、この村を」
骸を見下ろし、堪えきれずに声を上げて笑った。
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