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彩の顔を覆っていた白い布は、僕にとってパンドラの箱だった。
今思えばの話だが・・・。
生きていた頃の面影をなくした彼女の顔を見た僕はめまいと吐き気に襲われた。
彩は最期の一瞬に何を思ったのだろう。
恐ろしさに動くことも、叫ぶことも忘れてしまった彼女を、執拗に痛めつけた犯人に
ふつふつとした殺意を感じた。
「高木彩さんのご遺族の方ですか?」
そう呼びかけられるまで刑事が近づいてきていたことに気づかなかった。
僕は顔をあげてその刑事を見た。
「このたびは・・・」
ありきたりな言葉で近づいてきた刑事に僕は聞くべきことをたずねた。
「犯人は?」
少し言い方に棘があったのか、刑事の勘に触ったのか彼は少し眉をひそめた。
「まだ犯人は逃走中ですが、全力をあげて犯人逮捕を目指しますので・・」
僕は、横目で彩を見た。
「妻は・・新しい命を授けていたんですよ・・・」
僕は震えるこぶしを握り締めていた。
そうでもしていないとこのやりきれないむなしさと、憤りをこの男にぶつけてしまいそうだった。
「残念です・・・」
そう声に出すと、刑事は捜査に戻ると告げきびすを返し去っていった。
「孝雄君、それは本当なの?」
義母が僕にたずねた。おそらく、妊娠のことだろう。
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