殺してあげる

第一章 慟哭

僕の脳裏に彩が妊娠したかもしれないと告げてきたときの顔が浮かんだ。
あの時僕は、喜びに思わず飛び跳ねて彩に抱きついていた。

「この週末にお義母さんをたずねて報告するつもりだったんです。
自分で伝えたいといって彩はきかなかったんです・・・」

もう動くことのない彩の白い小さな手を僕は握り締めていた。
もう２度と微笑みかけることも言葉を発することもなくなった僕の妻は
誰かに殺された。

この事実を認めてしまいたくない。
でも、妻は一晩中目覚めることはなかった。
ベンチに腰かけ、カップコーヒーに口をつけた。
「まずい・・・」
そうつぶやくと僕はベンチを病院を後にした。