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井上のいるであろう台所に向かうまでに、総司は美華に屯所を簡単に案内した。
「井戸に厠(かわや=トイレ)にお風呂…美華さんが普段使う場所は大体このくらいですかね。必要ならその都度聞いてください」
『…うん』
初めて見るものばかりの美華はとまどいを隠せなかった。
「源さーん!いますかぁ?」
総司は台所を覗き込んで言った。
「ん?総司じゃないか、どうしたんだい?」
竈(かまど)の前にしゃがみ込んで火を入れていた男が振り返った。
「新しく女中さんが入ったので挨拶に来ました。美華さんです」
総司に促(うなが)されて、美華は井上に頭を下げた。
『初めまして、美華です。詳しい事は後で近藤さんから説明があると思うけど、よろしくお願いします』
美華が顔を上げると、井上はにっこりと笑っていた。
「美華さん、よろしくね。私は井上源三郎だ。一人で食事の用意をするのは大変だったから助かるよ。えーと、すぐに働けるのかな?」
井上の問い掛けに総司と美華は顔を見合わせた。
『…多分、大丈夫だと思う』
「そうかい、ありがとう。じゃあこの前掛け(=エプロン)を使って。綺麗な着物が汚れたら大変だ。総司は近藤さんに、今日から美華さんに手伝ってもらう事を伝えてきてくれるかい?」
優しい笑みを絶やさずに、井上は総司に言った。
「はい、わかりました。それじゃあ美華さん、頑張ってくださいね!」
笑顔で手を振り、総司は台所を出て行った。
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