13人が本棚に入れています
本棚に追加
「まだやってないのかぁ」
結局引きずられるようにして連れてこられた先は、私たちがいつも体育で使っている体育館だった。
無造作に開け放たれた入り口から三人で顔を覗かせるが、そこには人らしい人は確認できなかった。
「にしても、広いな」
すらりと背の高い蒼っていう人が、するりと私の横をすり抜け、体育館に足を踏み入れた。
私たちの高校は結構な大人数のため、体育館もそれなりに広い。
まぁ、広いこと事態は嬉しいんだけど、体育の時に走るの凄くつらい。
半分ぐらいでいいんだけどなぁ、大きさ。
「おじゃまさまー」
『っわ!』
未だにつながれている右手のおかげで、彼が動くたびに私も動かなければならなかった。
いい加減もう離してほしいものだ。
なんて心の中で思うが、振り払うには彼の力は強すぎた。
「準備はしてあるみたいだな」
「ははっ、本当だ」
ずかずかと体育館に入り込んだ二人は、ステージにおいてあるマイクとか、何かおっきい箱みたいなのを見て口元をつり上げた。
彼らはきっと、ここで演奏するつもりなんだ。
「まこ」
『っ!?』
少し遠くのステージを見つめていたからか、鷹丸がいきなり顔を近づけてきたことに気がつかなかった。
瞳の中に広がる彼の整った顔つき。
こんな風に男の人に近づいたことなんかなくて、すぐにでも体が逃げようとしたけど、がっしりと両手首を捕まれて背を向けることすら出来なかった。
ニヤリとつり上げられた口元。
まっすぐな瞳。
無邪気な笑顔。
「歌は、好き?」
そんな問いかけの意味を、私はまだ、知らないでいた。
・
最初のコメントを投稿しよう!