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「好き?」
『あ、えっ?』
彼の声が私を刺した。
こんな広い体育館の中、すぐ消えてしまうはずの彼の声は、まるで形を残すように私の周りに留まっている。
一体なんだというのだ。
歌、が好き?
「どっち?まこ」
『す、好き・・・だけど』
どっちかって言うと歌は好きだった。
勉強とか運動は凄く苦手だけど、友達と一緒にカラオケに行ったりするのは普通に好きだし。
歌番組だって普通に見る。
凄く好きってわけじゃないけど、それなりに好きだった。
「そうかっ!!お前も好きなんだ!」
がしがしと頭を撫でられて、意味の分からなさにしばらく硬直していると「鷹!」と、すでにステージに立っている蒼が、彼を呼んだ。
あぁ、悪い悪い!なんて言って駆けだしていく彼。
するりと離れたその存在が、私を離してはくれなかった。
『・・・なに、?』
今の表情は、なに?
屈託のないあの満面の笑みは、一体何だったのだろうか。
それに、その後のあの困った笑みは。
("お前も"好きなんだ)
本当は、私じゃないのかもしれない。
彼は初めから私なんか見ていなくて、初めから私じゃない誰かを求めていたのかもしれない。
悲しい訳ない。
ただ、びっくりしただけ。
彼も、
何かを失してる。
そう思った。
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