文化祭

9/25
前へ
/25ページ
次へ
母と父と娘の三人暮らし。 それが、いつの間にか二人だけになってしまった。 凶器は刃渡り20センチほどの包丁。 いつもお母さんが料理に使っていたその包丁が、そのときは凶器となってしまったんだ。 幸せだよな? ゆがんだ愛に決して幸せなどありはしないのに。 父という名を持ったあの人は、それを愛と疑わなかった。 いつからだろう、あの人がひどく変わってしまったのは。 いつからだろう、あの人が私たちに手を上げるようになったのは。 変わり果てた現状を捨ててしまいたくて、お母さんは一枚の紙を取り出した。 物陰で見ていた私は、あの人がとった次の行動に、ぴくりとも動くことが出来なかった。 突き立てられた包丁。 うずくまるお母さん。 したたり落ちる真っ赤な液体。 「幸せなんだろ?」 狂った愛情は何も生み出さない。 ゆがんだ愛にまみれたその笑顔は、もはや恐怖でしかなかった。 ひたひたと忍び寄るあの人に、私は一体何をしたのか。 吹き飛んだ窓ガラス、吹き飛んだあの人。 現状を打破した自分自身の力は、いったい何だったのだろうか。 「・・・化け、物」 あの人が口にしたのは、そんな言葉だったんだ。 .
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加