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後は歴史の授業とさほど違いがあるわけでもないので、やっと私にも授業について行けるようになった。
もちろん、栞のように内職をしている人や、うとうとと首を揺らす人がほとんどではあったけれど。
首を揺らして夢の世界に行ったり来たりしている人達を見ていると、牧師独特の、人を許すためにあるような穏やかな口調の授業にのって、睡魔が私の肩をもたたきはじめた。
宗教は初めての授業なのに、いきなり寝てしまうというのはさすがに抵抗があったので、私は何度も目をこすって、首を振り、とにかくその空気に流されないようにと振る舞った。
でもいつまで持つかというと、あまり自信は持てなかった。
「ずいぶん眠そうだね」
牧師の眠りの言葉の中、突然耳に心地よいはっきりとした声が届いた。
振り向くと、隣の真一君が私を見て、かすかに笑っていた。
「別に寝てもいいんだよ? 牧師は許すのが仕事なんだから」
流れるクラシックミュージックのような空気の中、響かないように頭を低くして、小声で尋ねた。
「真一君は、大丈夫?」
「一応、家はキリスト教だしね」
と言って制服のシャツの襟の下から一本の銀の鎖を引っ張った。
それに引かれて襟元から一つの十字架の首飾りが姿を見せた。
それはステンドグラスの大きな窓から入る光をかすかに反射してとても綺麗な色を放っていた。
その光をはね返す姿に目線を離せずにいると、彼はゆっくりと首の後ろに手を回し、十字架を止める極細の鎖を外してその手の中に収めると、そっと私の聖書の上に置く。
かすかな銀の擦れ合う音が耳の中に微かに、でもはっきりと届いた。
彼は私の目を見て軽くうなずく。
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