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それは手に取ってみると、とても軽くて、持っているという実感があまり湧いて来ない程だった。
私の指にかかった銀の鎖は光の加減で、場所によって微妙に明るさが違い、それによって持ち上げられた十字架は、その向こうに見える祭壇の十字架と同じ形をしていた。
ゆらゆらと揺れる十字架が場所によって、一定のリズムできらっと光る。それは純粋に綺麗としか言いようのない光景だった。
きっと「心奪われる」という言葉はこういう気持ちを表わしたものなのだろう。
「気に入った? それ」
彼の言葉にふっと意識が十字架から抜け出した。
真一君の言葉に、私は笑顔もなく、ただうなずく事しか出来なかった。
まだ意識が少しぼーっとしている。完全に十字架に魅入られてしまった自分がいた。
他人のものだけれど、ひどく自分の心の中の大きな部分を掴まれた感じがする。
「ほしかったら、あげるよ」
彼は聖堂に響く牧師の声に重ねるように、優しい声でつぶやいた。
「え...、でもほら、..あれだし」
まだ口が上手く回らなくて、ちゃんと言えない。
今日も付けていたという事は、彼は少なくともこの十字架が気に入っているはず。
嫌いなものなんて付けはしない。
それを私がもらうと言うのは-
「他にもっとお気に入りがあるから。いいよ」
私の考えを読んだような言葉だった。
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