「十字架」

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普段の私なら、もっと遠慮して意地でも返していただろう。 でも、意地汚い話だけれど、この十字架を私は本気で好きになっていた。 いつでもそばにこの十字架があってくれたら、と。 そんな事を思うようになっていた。 「ごめん...」 ありがとう以前に逆の言葉が口をついて出る。 何年もの片思いがやっと叶った時のような喜びが胸を満たして、出たのが「ごめん」という言葉。 自分のやっている事がよくわからなかった。 どんな顔をして良いのかわからなくて、彼を見ると真一君はさっきと同じような顔をしていた。 自分の大事なものがなくなったのに嫌じゃないんだろうか。 私の気持ちとは裏腹に、牧師は許すような声でいつまでも同じ話を繰り返していた。 私の気持ちも許してはもらえるのだろうか...。
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