「土曜日の午後」

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私と真一君が二人残され、敦司君のクラス前の廊下で壁にもたれて待っていた。 「真一君も来るんだよね?」 彼は首を傾けてうなずきながらも、「ちょっと遅れるけど」と断りを入れた。 本当に多忙な人なんだと思いながらポケットに手を入れると、冷たい金属の感触が指を伝う。 しばらく黙って待っていると、話を終えた栞が後ろのドアから姿を見せた。 私は壁から身を離して、彼に手を振ってから栞と階段を上がって行った。 階段を上がっている間、栞の話を聞いてはいたけれど、意識の半分以上はポケットの中の冷たい十字架に釘付けだった。 指先で触れると、細い十字架が確かにそこにあるのが感じられる。 「未帆、もう鞄持ったらすぐ行くよね? 敦司もすぐ来るって言ってたし」 「うん」 廊下の窓から見える外の景色は雲に覆われていて、今にも雨...いや、雪が降り出しそうな空だった。 少し空が重たい。 何気なく、そう感じた。
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