「土曜日の午後」

10/11
前へ
/126ページ
次へ
「好きなとこ座れよ」 彼はエプロンを着けると背中に両手を回して紐を括りながら、カップのある棚の方へと移動した。 カウンターの席に栞と隣り合わせで座ると、彼はまずホットのレモンティーをカップに注いで栞の前に出す。 もう彼女は常連と化していて、注文しなくてもレモンティーが出てくるようになっているようだった。 「未帆は何にする?」 彼はカウンターの隅にあった小さなメニューを私の前に出して、飲み物のページを開いてくれた。 見てみると、紅茶からココアまで、だいたい普通の喫茶店にあるものはそろっている。 「えっと、じゃあ...ホットチョコレート」 「了解」 言って、彼はコンロに火をつけて小さななべをその上においた。 男の人が料理している姿というのもあまり見かけないせいか、私はめずらしい感じがして、じっと彼の手つきを眺める。 「未帆ってさ、ひょっとして甘い物好き?」 隣の栞がレモンティーを置くと私に尋ねた。 「かなり。もう甘いものなら何でも」 「だと思った。そんな雰囲気だし。確か真一もそうよね?」 と、栞が声をかけると、敦司君は器用になべを揺らしながら軽くうなずいた。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加