「私たちにとっての『時間』」

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土曜日の朝は雪だった。 パンを食べながら今日の天気予報を見ると、長野は一日中、雪らしい。 地域の天気予報に、関東地方ではなく中部地方の天気図が出るのにももう慣れてしまった。引越し初日には、どこの地図かすらわからなかったのに。 「未帆。今日おじいちゃんのところ、行ってくれるんでしょう? よろしく言っておいてね」 お母さんが眠そうな目を擦りながら、台所へと足を運ぶ。 普段お父さんや弟の弁当を作るために早く起きているせいか、会社も学校もない日はお母さんも寝起きが悪い。 自分の朝ご飯を作るのも面倒そうに冷蔵庫の前に座って、その中身とお見合いをしている。 「何にもないのよねえ..。この果物は-」 「駄目。それはおじいちゃんの所に持ってくの」 私がお母さんの手の中の果物のカゴを取り上げると、お母さんは唇を尖らせて恨めしそうに私をじっと見上げる。 「子供じゃないんだから」 言って果物を手に持って、机の上のマフラーを取る。 窓の外には雨よりずっとゆっくりと、白い雪が舞い降りていた。 「行ってくるね。今日はそのまま友達と夕飯食べてくるから」 寝ぼけたままのお母さんに言い残すと、冷気の染み込んでくる玄関で靴を履く。
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