一章

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濃厚な緑の匂いが、鼻孔をくすぐる。 空は夕刻を刻むように、その色をだんだんとぼかしてゆく。 山の中にあるレトロ調の煉瓦造りの建造物。 学校の持ち物としては、造りが異国の城塞を漂わせといるのは、単に理事長の趣味とも言えよう。 その二階の窓に、まだ青年と呼ぶには幼く、かと言って少年と形容するには大人びている。 すらりとした長身に、細身ながらも筋肉質的な身体は、どこか豹を彷彿とさせる。 顔は、彫りは深く、茶色を帯びた髪を無造作にオールバックにしている。 険しい目つきで、双眼鏡を手にしている。 彼が、それで目を追っているのは、 中庭…理事長の趣味の洋画に出てくるようなガーデンにいる女生徒だ。 もし、誰かが通りかかったら、その場で警備員を呼びそうな位、怪しい。 しかし、堺 愼 (サカイ シン)は、そんな事を露とも考えずに女生徒とを見つけては、そちらに目をやる。 「見つかったか?」 尊大とも言えるような少女の声が愼の背中に投げ掛けられる。
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