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《風花》
五月二十三日、六時三十分。
目覚ましが鳴る三十分前に目が覚めた。
寝直すような気にもならず、布団から身を起こす。
薄いカーテンと立て付けの悪い窓を開き、陽射しに目を細めながら大きく一つ深呼吸。
朝の空気はひんやりと冷たくて、体が清められる気がするから好きだ。
布団を押し入れに片付け、小物入れから髪を括るゴムを一つ取り手首にはめて、寝間着の代わりに着用しているトレーナーのまま自室を出る。
築四十年の我が家は歩く度にキィキィと床が音をたて、うるさい。
だけど、私はその音が嫌いではなかった。
確かに、私はここにいるのだと、そう思えるから。
狭くて急な階段を降りると、居間で父さんがちゃぶ台の前に胡座をかいて湯呑みでお茶を飲んでいた。
母さんは台所で朝食の用意をしている。
「おはよう」
声をかけると、父さんは一瞬だけこちらを向き、「ああ、おはよう」と返事を返してくれた。
母さんは背を向けたまま、返事をしてくれなかった。
いつものことなので気にしないことにして、歩を進める。
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