一章

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 伍鬼 「情報屋」 ――近江・琵琶湖。 美濃から近江を目指した君と聖。琵琶湖の近くには、大名の屋敷があった。榊家はそこの家系と親しいので、君の屋敷への出入りは自由となっている。その家系の姫君の用心棒が、姫君の部屋まで案内した。部屋に入ると、奥の屏風の前でだらしなく寛ぐ豪華絢爛で美しい姫君が居た。 「よく来たな、会いたかったぞ若。」 「相変わらずで何よりだ、空。」 君と聖は、姫君・番野 空(ツガイノ ウツ)の前に座った。 「お主も久しかったな、聖の字。」 「再びお会いできて光栄です、お空様。」 聖は深々と頭を下げた。挨拶が済んだところで、君は本題を切り出す。 「完成式五神刀について、情報を提供してもらいたい。」 空は、それを聞くと少し顔を顰めた。 「今担当してる依頼が、ソレ絡みって訳かい…」 「流石、察しがいいな。」 危険な匂いが漂い始めたのは、今に始まった事ではない。しかし、空が顔を顰めたところを見ると余程の事だろうと君は思った。 「俺はお前の情報網を買ってここまで来たんだ、教えてくれないと困る。」 君がそう言うと、空紀は少し顔を赤らめた。それを紛らわす様に、煙管を吸う。 「お、お主が…言うのなら、仕方あるまい…。」 わかりやすい女だ、と君は思う。君が空のことをどう思っているかは知らないが、空が君に想いを寄せている事は見ていれば判る。三人は、声の大きさを小さくして密談するように話した。 「依頼人は誰だい?」 「刀鍛冶の志崎 飛鳥と雲雀、志崎 鉄丸の双子の息子と娘だ。」 「あやつ、自分の子供に後釜継がせやがったのかい…」 そう言って煙を吐いた。 「完成式五神刀に神が宿っているのは知ってるかい?」 「あぁ、双子に聞いた。」 「完成式五神刀は、作者の志崎 鉄丸が生涯最後に打った最高傑作の刀だよ。」 神の宿る刀…――至って普通の刀鍛冶が打てるとは到底思えないことから、志崎 鉄丸は普通の刀鍛冶ではない事が解る。 「志崎 鉄丸とは、どんな男だ?」 「さぁねぇ、名は知れ渡っているものの誰も顔を見た事が無いし、声も聞いた事が無い謎の男さ。ただ、頭のイカれた男だとは聞いたことがあるよ。」 「と言うと?」 「何でも、通称・神の仕いだったらしい。」 近くの村に大きな災いが来ると予言し、実際にその村には嵐が直撃したとか。 「一瞬ちらりと聞いたことがあっただけだから、確かな情報では無いけどね。」
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