一章

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空は、煙管を銜えたまま深呼吸をし煙を吐き出した。君は顔にかかった煙を鬱陶しそうに振り払うと、最後の質問をした。 「最後に、その五本の刀の所在をできるだけ教えてほしい。」 一瞬辺りが凍りついた。 「…何も、調べてこなかったのか…?」 「今調べている、早く教えろ。」 大事なところが抜けているのを呆れて溜息を付けばいいのか、自分を頼ってくれているのを嬉しがればいいのか、空は次の行動を迷った。 「流石の私にも詳しくは解らない、早急にこちらで調べよう。ただ、現時点で判っている事は二本は既にある一組織が所有し、一本はある一族が家宝にしている。」 「珍しく遠回しな言い方をするな、そのある一組織と一族とやらも知っているんだろう?」 空は答えるべきか迷ったが君を信じて答える事にした。小さな器の上に灰を落とすと、器の隣に煙管を置いた。 「お主も聞いたことくらいあるだろう?“十六夜”と“菊一族”だ。」 ――十六夜―― 正体、足取り、拠点、目的、いずれも不明と言う謎の組織。ある地では一種の宗教であると、ある地では一種の一揆であると言われている。昨年、黒い羽織を羽織った一小隊ほどの人数が、万の兵士と領を護る武将を討ち取るという事態が起きた。その者達は「我“十六夜”也」と言い残したという。“十六夜”と言う名が世に知れ渡ったのはその頃からだ。 ――菊一族―― 特殊な能力を持ち、一族と言う名の集団の中では最強と謳われている。菊を“死の花”と呼び、人名やら何やらやたらと菊を用いている事から、“菊一族”と言うあだ名が付いた。 伝説の刀鍛冶・志崎 鉄丸が打った、“完成式五神刀”全五本の内、二本は十六夜、一本は菊一族が所有しているという話だ。君は苦笑し、頭を抱えた。 「厄介な事に巻き込まれるとは…俺も墜ちたモンだな…」 「…巻き込まれた、か…偶然にも運悪く、って言い方だね。」 空の言葉に、君は目を細める。 「どういうことだ?」 「私には、何かが因果関係にあるとしか思えない…つまり」 君は何かに気付いた、不明確且つ証拠不十分な考えではあるが… 「この一件は“偶然”なんかじゃぁなく、“誰かが意図的に仕組んだ”事だろうね。」 「…!!」 いつの間にか、空には月が揚がっていた。鋭く針のように尖った三日月は、今にも君を刺し殺さんとしている様だった。
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