一章

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 壱鬼 「出発」 ――それから数年後…。 これまでというもの、二人は常に行動を共にした。床、食事、稽古、依頼、その他…聖は常に機を狙い、互いに高めあった。そして今回の依頼でも、聖は君の傍を片時も離れないつもりでいた。 ―半刻前― 「伝説の妖刀?」 「左様」 一人の武士が榊家に依頼を持ちかけた。 「本当の依頼人は、美濃に住む京生まれの双子の刀鍛冶…今は手が離せないらしく、代わりに私が参った次第。」 「依頼内容は?」 「かの有名な刀鍛冶・志崎 鉄丸(シザキ テツマル)が打った、伝説の妖刀とやら全五本を回収して欲しいと。」 「…成程…」 君は少し間を置くと、聖に何かを合図するように視線を送った。 「詳しい話は直接依頼人に訊こう、依頼人の詳しい居所を教えて頂こうか。」 君は武士から居所を訊くと、即刻立ち去るように促した。直ぐに旅支度に取り掛かると、現当主である君の父親が駆けつけた。 「美濃か」 「今の所は、ですが。」 すると当主は君と聖にしか聞こえないように耳打ちをした。 「…この依頼、少し厄介だ…命を落とす事になるやもしれん。」 当主が言うのだから相当な覚悟が必要だと君は思った。 「父上、縁起でもない事をそう容易く口にしてはいけません。それに、聖が居る限り俺が死ぬ事は到底無理な話、心配無用です。」 君は当たり前のように言い切った。聖もその通りです、と言うように頷いた。そんな若き二人を見ると、当主は半信半疑な気持ちで自室に戻って行った。 「聖、明日の朝巳の刻にてここを発つ。」 「畏まりました。」 「それと…」 と、君は聖の方へ振り返る。 「いつでも戦に出られるよう、準備しておけ。」 「承知」 いつにも増して真剣な表情で、君は言った。 ――翌日。 予定通り、明朝巳の刻にて君と聖は当主に見送られて発った。目指すは美濃の国、これより巻き込まれていく壮絶な戦いを誰も知る由は無かった…――。
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