一章

5/10

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
「し、失礼します」 聖は少し距離を置いて、君の隣に蹲る様な形で座った。 「聖、俺の事嫌いか?」 「…は?」 何を言い出すかと思えば…と、暫く開いた口が塞がらなかった聖。君の事を暫く軽蔑の目で見てみる。 「そんなの、嫌いに決まってるなじゃいですか。」 今も鮮明に憶えている、あの時の君の禍々しい姿を。里の者達を無造作に斬り殺された、悲しみを。仲間の仇を、好きになれと言われても、到底無理な話だ。 「最近思ったんだけどな、俺が死ねばお前が満足するなら…別にお前が俺を殺さなくてもお前は満足するんじゃねぇのか?」 聖の角度から君の顔は、眼帯で覆われていて見えない。君が聖にどんな表情で、どんな気持ちで訊いたのかもわからない。ただ聖は、もう軽蔑の目で君を見てはいなかった。 「あの時若は、私に“死の権利をくれてやる”と言いました。だから、若は私だけの手で殺します。いつ殺すかも、どうやって殺すかも、私が決める事です。誰にも死の権利は渡しません。私が若を殺すまで、私は若をお護りします。」 聖は君に、跪いた。君は差ほど驚いた様子も無く、聖の頭に手を置いた。 「変な事聞いて悪かったな、これからも宜しく頼む。」 「御意」 そう言って君は立ち上がると、再び三人の元へ戻っていった。聖は君の姿が見えなくなるまで、君の背中を見つめていた。名前も知らない、不思議な感情が生まれるのを感じた。 ただ、熱かった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加