4章"裏表"

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「はぁ…少しは気をつけてよ長州の大物さん…。」 皮肉たっぷりに桂を睨む瑠衣。 「今のは…壬生浪だね…助かったよ…私一人だと、また逃げる羽目になっていた。」 「だったら、もう少し上手く逃げてよね"逃げの小五郎"さん…。」 「ぁはは…確かに瑠衣に助けて貰ってばかりだね。」 二人はまた歩き出す。 今日が藤堂でまだ良かったと思う、此が総司や斎藤なら確実に見つかっている…。 その時にはその時、自分が出て助けてるんだろうなぁ… そんな事を考えてしまう。 「小五郎は何で祇園に? まさか夕飯なんて言わないでね…。」 「幾ら何でもそれは無いよ、今日は知り合いに会いに来たんだよ、たまたま京に居たんでね。」 「ふぅん…。」 隠れ家が見えて来る。 あっちに戻ってからは此処には一切近付いてはいない。 瑠衣と桂は何事も無い様に家の中に入った。 久々に二階に上がる、ひと月近く此処に居たのが不思議な感じがする。 桂は下から酒を持って上がって来る。 「呑むだろ?」 「あぁ…。」 とりあえず部屋の真ん中に腰を下ろす。 「…? 瑠衣…何時の間に大刀を? あれだけ嫌がっていたよね?」 脇に置いた刀を見て、桂は不思議に思う。 「あぁ…これも預かり物、無理矢理押し付けられた。」 少々困った顔をして刀を眺める…脇差しと大刀、どちらも大切な物には違いない。 「…見ても良いかな?」 桂のその言葉に少し躊躇う、今使ったばかり…血は払ったが、刀は曇っている…それに菊一文字には鞘に彫りが入り、鍔も独特…見る人が見れば直ぐ分かる…。 瑠衣は仕方無く、刀を桂に差し出す…。 「じゃぁ拝見するよ。」 不思議な刀だと思う、遠目では気付かなかったが鞘に彫りが少し入っている。 徐に刀を抜く、その向こうで瑠衣は渋い顔をしている。 「…見事な刀だね…かなりの逸品じゃ無いのかい?」 刀の曇りには敢えて触れない…多分瑠衣は…。 「多分…良い刀だと思う。」 普通なら大名達が観賞用としていても、おかしくは無い…それだけの逸品だ…。 「名を見ても良いかい?」 「それは駄目、預けてくれた人との約束…。」 「…そうか…。」 桂は刀を鞘に収め、瑠衣に返す、瑠衣も大切そうに刀を見ている。 ・
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