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猪狩守「松浦さん…あなたよく彼を選べましたね……。去年、彼の元に赴いて断られたというのに」
実を言うと、猪狩はアカデミーで東郷に会う前に一度だけ、面識があったことがあるのだ。
そしてそれは松浦も一緒であった。
あれは去年のドラフト会議の時のことである。
猪狩カイザースはパワフルズ、やんきーズ、キャットハンズの4球団との競合の末に東郷との交渉権を獲得した。
当時の東郷は甲子園準優勝投手ともあって、その実力は周りから注目視されていた。
そんな選手の交渉権を獲得したことは大きなプラスであり、球団内は大いに沸き上がった。
しかし…それは東郷本人からの断りの電話によって潰えてしまった。
その理由はこの作品を一貫して読んでいる方にはご存知のことだろう。
球団側は何としても東郷をカイザースに入れるべく、何度も説得に赴いた。
だが、再三に渡る説得も何一つ成果は出せず、全て徒労に終わってしまったのだ。
後が無くなった球団側は、最終手段としてカイザースが誇る猪狩守、松浦総司の二大エースを交渉の場に送り込んだ。
結果的には東郷に良い感触を与えることには成功したが、入団にまで踏み込むことにはならず、東郷は中部野球アカデミーへと行ってしまったのだ。
そのこともあってか、猪狩は松浦が東郷を再び選ぶことは無いだろうと踏んでいた。
だが……。
松浦「守…。お前もわかっているだろう。彼が去年断ったのは理由があったからだ。そしてその理由の件についてはもう済んでいるはず。ならば、今回はすんなりと入団してくれるだろうさ」
猪狩の憶測は違っていたのだった。
松浦はまだ諦めてなかったのだ。
自らが率いるチームの戦力として加えるために、再び東郷を選択したのである。
そしてその口振りからして、東郷が必ず入団という確証があるかのようだった。
猪狩守(何にせよ…彼が入ってしまうと厄介だな……。今年は気が抜けなさそうだ)
そう考えつつも、今は自分が希望する選手が通ることを祈るばかりだった。
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