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彼は周りを静かに見渡す。
この緊迫な空気を感じることで自分は確かに戻ってきたんだと、実感していた。
ただ、自分が講師としていたアカデミーでの騒がしさがふと、懐かしく感じた。
つい数ヶ月前の出来事なのに懐かしく感じる。
それほどそこでの生活は充実していたのだった。
猪狩守(さて…一体何人がこの会議で選出されるかな…)
講師という立場柄、選手を間近で見ていたこともあって、全員の実力の程は実に理解している。
そしてその見てきた中で、自分が一番だと思った選手を選出する予定であった。
猪狩守(彼が入ってくれれば未来の主力選手としてより、カイザースを強力にしてくれるはずだ。そのために何としても彼の交渉権を得なければ……)
考えを巡らしていると、背後より歩み寄る影が一つ、あった。
それに気づいた猪狩は後ろを振り返った。
そこにいたのは猪狩よりも背が高い、短髪で黒髪の男だった。
「やぁ、守。久しぶりだな」
猪狩守「あぁ、松浦さんでしたか。本当に久しぶりですね。ボクが怪我して以来でしょうか」
彼の前に現れたのは松浦総司(マツウラ ソウジ)。
猪狩守がカイザースに入る前まではエースを勤めていた男で、来期プロ16年目を迎える33歳である。
とは言っても、実力は猪狩に引けを取らず、全盛期においては猪狩以上の実力を有していた。
ただ、今は年齢のこともあってか、その能力は年々衰えつつもあった。
松浦「しかし、お前は今年からプレイングマネージャーなんだな。復帰したばかりで大変じゃないのか?」
猪狩守「そうでもないですよ。寧ろ、大変なのは松浦さんの方じゃないですか。いや、松浦監督代行」
松浦「…そうだな。私もお前と同じ立場だったな」
松浦も今、この場にいるのは選手としてではなく、監督としているのだった。
そして彼が率いるチームは新チームのシャイニングバスターズ。
このドラフト会議は彼にとっても、チームにとっても初めてのことであり、今後を左右する重大なイベントである。
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