112人が本棚に入れています
本棚に追加
初めて降り立った広島駅は、二人の住む町とは比べ物にならないほど広く、混雑していた。
ビジネスマンからきれいなお姉さんまで、老いも若きも急ぎ足に通り過ぎていく。
すれ違う人の半分近くが老人にあたる過疎の町とは、活気の違う光景だった。
前もって予約しておいたビジネスホテルの場所は、駅から徒歩三分としか聞いていない。
出口が一つしかない地元の駅なら見つけやすいが、東西南北に出口があるのでは、どっちに三分なのかわからなかった。
康太は駅の案内板の前で立ちすくんだ。
「参ったな。こんなに広いとは思わなかった」
ひとり言をもらす康太をよそに、ニコは携帯で駅近郊のマップを検索している。
暑い駅内は立っているだけでじっとりと汗ばんでくる。
太陽の熱さではなく人群れによる暑さは、体力自慢のコータでも熱中症になりそうな息苦しさだった。
「どこか入るか? 暑くない?」
ニコが具合を悪くなるんじゃないかと心配した康太だったが、彼女は思う以上に平気そうだ。
康太を一瞥すると、先に歩き出した。
「場所わかった。こっち」
携帯片手に先を歩いていくニコの後ろから、荷物持ちよろしく二人分のバッグを抱えてついていく。
こんな時にリード出来れば男らしいのに、そういう適正は彼女が上なのだから参る。
人ごみの中に消えそうなニコを見失わないように、康太はニコの空いているほうの手を握った。
軽くつなぎ合わせた手が、次第に二人とも汗ばんでくるのがわかる。
つないだ瞬間驚いたように固くなったニコの動きは、次にはもう何もなかったような感じだ。
こんな時、少しでもこっちを見てくれたらうれしいのにな。
――と康太は思っている。
女の子らしさを強いるわけではないが、手を繋いで無反応だと、さすがに切なかった。
最初のコメントを投稿しよう!