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初めて降り立った広島駅は、二人の住む町とは比べ物にならないほど広く、混雑していた。 ビジネスマンからきれいなお姉さんまで、老いも若きも急ぎ足に通り過ぎていく。 すれ違う人の半分近くが老人にあたる過疎の町とは、活気の違う光景だった。 前もって予約しておいたビジネスホテルの場所は、駅から徒歩三分としか聞いていない。 出口が一つしかない地元の駅なら見つけやすいが、東西南北に出口があるのでは、どっちに三分なのかわからなかった。 康太は駅の案内板の前で立ちすくんだ。 「参ったな。こんなに広いとは思わなかった」 ひとり言をもらす康太をよそに、ニコは携帯で駅近郊のマップを検索している。 暑い駅内は立っているだけでじっとりと汗ばんでくる。 太陽の熱さではなく人群れによる暑さは、体力自慢のコータでも熱中症になりそうな息苦しさだった。 「どこか入るか? 暑くない?」 ニコが具合を悪くなるんじゃないかと心配した康太だったが、彼女は思う以上に平気そうだ。 康太を一瞥すると、先に歩き出した。 「場所わかった。こっち」 携帯片手に先を歩いていくニコの後ろから、荷物持ちよろしく二人分のバッグを抱えてついていく。 こんな時にリード出来れば男らしいのに、そういう適正は彼女が上なのだから参る。 人ごみの中に消えそうなニコを見失わないように、康太はニコの空いているほうの手を握った。 軽くつなぎ合わせた手が、次第に二人とも汗ばんでくるのがわかる。 つないだ瞬間驚いたように固くなったニコの動きは、次にはもう何もなかったような感じだ。 こんな時、少しでもこっちを見てくれたらうれしいのにな。  ――と康太は思っている。 女の子らしさを強いるわけではないが、手を繋いで無反応だと、さすがに切なかった。
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