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それにしても、一緒にいる時に携帯ばかりいじられると淋しい。
それに、もうちょっと意識してくれても罰は当たらないんじゃないか。
「ニコー?」
そんな思いから話しかけたコータの声に、
「ん?」
「部屋、ツインで良かったんだろ?」
ニコの携帯をいじる手がいきなり止まった。
――もしかして、ここにきてニコは怖くなったんだろうか。
いたって平気そうなニコの様子に、最初こそヤキモキしていたコータだったが、いざニコに固まられると、それはそれで不安になった。
旅行へ行く前、予約の段階で「ツインにしよう」と言いだしたのはニコの方だ。
いまになって嫌だと言われても……という気持ちがないと言えばウソになる。
が、そうだとしたら仕方がない。
初めての彼女だ。
大切にしたい気持ちは、もちろんある。
「今なら替えられるぞ。シングルにしとく?」
精一杯優しく言った言葉は、ニコの携帯によって後半部分をかき消された。
「よし! ダウンロード出来た」
「……」
「ツインでいいよ! こないだそう決めたじゃん?」
あっけらかんと言い返されたのと同時に、ドアが開く。
ドアの外は赤黒い絨毯が敷き詰められた狭い廊下だ。
静まりかえったそこは薄暗く、心細い気分にさえなる。
エレベーターを降りると、二人は701号室を目指して歩きだした。
いかにも角部屋っぽい号数のその部屋が、思ったとおり廊下の一番端に見えてくる。
ドアの前に立ち、カードキーを差し込むと、音もなくドアは開いた。
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