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まったくもって人生はどう転ぶかわからないもんだ。
いま俺は広島へ向かう電車の中、隣にはつき合って一週間になる彼女がすやすやと寝息をたてている。
彼女の名前は加藤ニコ。
同じ高校の、夏休み前まではただのクラスメイトにすぎなかった彼女が、いまは俺一人の彼女。
さらさらの茶髪を、キラキラ光るピンでとめて、ニコは俺の肩に頭をあずけている。
電車は心地よい揺れと共に山陽道を西へ。
この揺れが彼女に快適な眠りを与えますようにと願いながら、俺はこっそり彼女の顔を覗き見ている。
長いまつ毛、陽に焼けた頬、シャープな顎。
よく〝小型犬に似ている〟と、不名誉な形容をされる俺とは真逆のタイプ。
彼女は例えるとすればライオンだ。
金色の毛並みを輝かせる、獰猛でセクシーな生き物。
人は自分に無いものを他人に求めるというが、それが本当ならベストカップルと言えよう。
昔から俺は勝気でキレイな女の子が好きだった。
弱気だからだろう? って?
その通りですが何か?
夏休みに入る前までは、学年で一番美人な子が好きだった。
まぁ、案の定相手にされなかったわけだが。
その、振られた日。
ちょうど地元では花火大会があった日。
気晴らしに共通の友人と三人で見に行ったはずが、いつしか俺たちは二人きりになっていた。
俺たちは知る人ぞ知る花火スポット――河口にある防空壕前に陣取った。
風が運んでくる火薬の匂いと、むせるような暑さの中、
彼女はひまわり柄の浴衣を着て、耳の横に小さなひまわりを挿していた。
普段気が強く、おしゃべりな彼女が、その時は妙に大人しくて。
そのお陰で自然といいムードになったわけだけども。
まあ、なんて事ない。
彼女は防空壕の前に座るのが怖かっただけなんだけどね!
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